貯金ではなく投資に励む明彦

貯金することを進めた克寿に明彦は明るい顔で返す。

「まあね。でも投資してるからそんなに困ったりはしないと思うよ」

投資という言葉に恵実も克寿も一瞬固まった。

「……明彦、投資なんてやってるの?」

「うん、会社の先輩に勧められて始めたんだ」

「そんなものは今すぐにやめろ。そんなことをせずに真面目に働いて貯金をするんだ」

克寿の鋭い声を向けられて、明彦は驚いた顔になった。

「……何で?」

「あんなものはギャンブルと一緒だ。少なくとも素人が片手間に手を出していいもんじゃない。だから今すぐにやめるんだ」

明彦は吐き出した乾いた息に混ぜこむように浅く笑った。

「いやいや、そんな難しいもんじゃないって。今時普通だよ。やり方さえ覚えたら別に俺たちでもできるようなもんだし」

暖かな雰囲気だったリビングがどんどん殺伐としてくる。

恵実も投資という言葉自体にマイナスなイメージを強く持っていたが、2人に喧嘩をしてほしくなくて間に入った。

「まあ、この子なりに考えていることがあるんだからそれでいいじゃない」

しかし克寿はこちらを見ずに答えた。

「上の人間に勧められて言われるがままやってるんだろ。何の考えもない証拠だ」

「それは最初のきっかけだろ。ちゃんと調べてやってるし、勝手に決めつけるなよ……!」

克寿は明彦に鋭い視線を向ける。

「真面目にコツコツとやっていればおかしなことにはならないんだ。それなのに欲をかいて余計なことをするから失敗をする。そんな人間に育てた覚えはないぞ」

「俺が自分の働いた金で何をしようが勝手だろ……⁉ 何も知らないくせに口出ししてくんなよ」

そう言うと明彦は立ち上がり部屋に戻ってしまった。

久しぶりの家族団らんを楽しみにしていたのに、恵実には家のなかに充満していく険悪な空気をどうすることもできなかった。

●久々に息子・明彦が帰省を楽しみにしていた恵実だったが、明彦が投資をしていると聞いた夫・克寿は投資はギャンブルと同じだと激怒。険悪な空気のまま、大晦日を迎えた…… 後編【「リスクが大きくない投資だってある」リーマンショックのトラウマを抱える父に息子が明かした投資内容】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。