夕飯を食べ終えて、裕子は洗い物をしていた。

夫の岳人は仕事が残っていると言って一度部屋に戻ったが、洗い物が終わったタイミングでリビングに戻ってきた。

「何か飲む?」

裕子がそう聞くと岳人は冷蔵庫の中を確認する。

「とりあえずビールにしとくか。そうだ、今度からさ糖質ゼロのヤツを買っておいてよ」

「え? なんで?」

「ちょっと太り気味なんだよ」

岳人はそう言ってお腹をさすった。

体型を気にしだした夫は…

裕子は当然、岳人が太っていることに気付いている。出会った頃から10年近く経つが明らかに全体的に大きくなっていた。今はまだ適正体重ギリギリだと思うが、これ以上太られては健康にも差し支えがあるだろう。

注意すべきかも迷ったが、岳人は自ら体型管理をしようとしている。これは裕子としても嬉しいことだった。

「分かった。それじゃ余ってる分は飲み切っちゃってよ。明日買いに行ってくるからさ」

「そうだな。裕子も飲むだろ?」

そう言って岳人はビールを2本取り出して、ソファに向かった。ビールを飲みながらつけっぱなしのバラエティー番組をなんとなく眺めていると、岳人が裕子にスマホの画面を見せてきた。

「ほらこれ、格好よくない?」

スマホの画面には、黒色の自転車が写し出されていた。ママチャリではなくハンドルがカマキリの腕のようになっている、いわゆるロードバイクと呼ばれるものだった。

岳人は学生時代に自転車で国体に出場したことがある。今では想像がつかないが、出会った頃は筋肉質でかっこよかったものだ。