家庭放置で没頭する岳人が…

それから岳人はロードバイクを購入し、自転車通勤を始めた。最初の数日はすぐに筋肉痛になったりしていたが、それすらも楽しいらしく、むしろ日に日にのめり込んでいった。

それに比例して体重も落ちていったのだが、自転車で痩せたというよりもより自転車で速くなるために食事制限をして体重を落としたというのが正しかった。それだけ岳人は自転車の楽しさにはまっていた。

やがて岳人は、本来は通勤のために買ったはずの自転車で昔の仲間とサイクリングをするようになる。土日のどちらかは必ず家を空けるようになり、当然家のことはほったらかしだ。

その日も岳人は友人とサイクリングに行っていた。裕子は一人で買い物をして、夕方に家に帰ってきた。玄関を開けるがそこには岳人の靴はない。いつもなら夕方までには帰って来ているはずだが今日はかなり遠出をしているらしい。

裕子は岳人の帰りを待ちながら夕飯作りを始めた。時刻が17時になろうとしていた。

さすがに遅すぎると思った裕子は、電話をかけようとポケットに入れたスマホを取り出す。すると見計らったかのようにスマホが震えた。画面には岳人の名前が表示された。裕子がスマホを耳に当てると、聞こえてきたのは岳人ではない別人の声だった。

「あの、岳人の奥様ですか?」

「……えっとあなたは?」

「友人の博です。今日一緒にサイクリングに行ってたんです」

博の声が暗い。その瞬間に心臓の音が跳ね上がる。

「あの、岳人は……?」

「……実はアイツ、事故っちゃって」

博の言葉を聞いて裕子は言葉を失う。そして作り途中だった夕飯を放りだして、病院へと車を走らせた。

●趣味で自転車を始めた夫が、出先で事故にあったという知らせを受けた裕子。夫は果たして無事なのか…… 後編【「健康への投資」が招いた大惨事! 妻へのマウントが思わぬブーメランに…趣味のせいで家計は大打撃に】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。