良い出会いがありますように――。
出雲大社の拝殿に向かって瑠璃は手を合わせて強く願った。過去に何度も神社で同じようなお祈りをしたことはある。しかし、以前に比べると今回は本気度が違う。
瑠璃は現在、34歳。来年にはアラフォーの仲間入りだ。学生の頃は、30歳くらいになるまでには結婚しているだろうとぼんやり考えていたが、ぼんやりしていたらいつの間にかその年を過ぎていた。
出産のことを考えれば、もう瑠璃に残された時間は多くはない。分かっているからこそ、お祈りにも力が入った。
「よし、これで金持ち男と結婚できる」
今回の島根への旅行を計画してくれた光莉が、隣でおどけたようにガッツポーズを作る。
「そんな簡単じゃないでしょ。神様だって別に良い男を連れて来てくれるわけじゃないんだから。こっちから動かないと結婚なんてできるわけないわ」
瑠璃が笑いながらツッコミを入れると、光莉は肩を落とす。
「また飲み会をセッティングしないとダメかぁ」
「マッチングアプリでいいじゃない。サクッと知り合えて便利だよ」
瑠璃の提案に光莉は首を横に振る。
「まぁ手軽だけどさ、私、前にそれで知り合った男からわけの分からない絵画を買わされそうになったんだって」
「そういえばそんなこともあったね。まあでもさ、私たちの年齢になったら、手段なんて選んでらんないよ」
「へいへーい」
瑠璃が発破をかけると、光莉も渋々といった表情でうなずいた。
瑠璃は島根の真っ青な空を見上げる。そして大きく息を吸い込む。今日という日を境に何かが変わる。そんな気がしていた。
実際、瑠璃の直感は正しかった。都内に戻ってから日を置かずに、瑠璃はマッチングアプリ経由で高感度の高い男性と知り合った。
名前は坂田大貴。年齢は31歳で、3つ年下だが性格はしっかりしている。職業は不動産営業で、真面目に仕事をしている風に感じられた。
それに何よりも重要なポイントが、アニメ好きであるということだった。
単にアニメ好きというだけならたくさんいるが、瑠璃の趣味が多少ニッチなこともあり、同じ作品を同じ熱量で語れる相手は大貴が初めてだった。連絡を取り合うようになってからも、毎日のようにその作品の話で盛り上がった。
もちろん最初のデートもアニメ作品のポップアップストアに行った。一日中大貴とアニメの神回や来期の新作について語り尽くした。
大貴が聞き上手なこともあり、しっかりと話を聞いてくれるスタンスでいてくれたおかげで、瑠璃は時間の許す限り好きな作品について話をすることができた。むしろ初対面から猛烈に話してしまったので引かれているのではないかと不安になったほどだ。
しかし大貴はすぐに2回目のデートに誘ってくれた。2回目はごく普通のレストランで食事をしただけだったが、瑠璃は大貴から告白された。
断る理由なんてあるはずがなかった。
瑠璃はふたつ返事で大貴の告白を受け入れ、2人は真剣に付き合うことになった。