<前編のあらすじ>
メーカーの製造工場で15年働く康介は、現場で実績を積みながらも、自分の仕事をどこか仮初めのものと感じていた。父も姉・美沙も医師で、自分だけが医学部に進めなかったことへの劣等感を今も拭いきれずにいる。
ある夜、役所から届いた納税通知書を開いた康介は、亡父の遺産に関する固定資産税・都市計画税として50万円の納付を求められていることを知る。所在地を調べると、そこには人の気配のない古びた建物があり、放置された廃墟のように見えた。
売却や相続放棄を調べても簡単な解決策は見つからず、滞納すれば差し押さえの可能性まであると分かって康介は追い詰められる。相続時は美沙に任せきりにしていたことも思い出し、腹立たしさを抱えながらも、結局は姉に連絡して週末に会う約束を取りつける。
●前編【「差し押さえ……?」医師一家の落ちこぼれ息子に届いた最悪の納税通知書】
格差を見せつけられる再会
待ち合わせ場所に指定されたのは、都内にある高級ホテルのロビーラウンジだった。
わざわざ東京に出るのは面倒だったが、なるべく早く話をつけるためには、より過密なスケジュールで動いている美沙の都合に合わせるしかなかったのだ。
だが、康介は入口をくぐった瞬間から居心地の悪さを感じた。磨き上げられた床には照明が映り、低い声で会話を交わす客たちは皆、身なりが整っている。作業着を脱いでポロシャツに着替えただけの自分が、ひどく場違いな気がした。
案内された席でメニューを開き、康介は眉を寄せた。コーヒー1杯が、普段の昼食代と変わらない。
「ここで待ってろって、どういう感覚してるんだよ」
小さく吐き捨てたところで、向こうから美沙が歩いてきた。落ち着いた色のスーツを着て、迷うことなく席へ向かってくる。
「待たせた?」
「別に」
美沙はメニューをほとんど見ず、コーヒーを注文した。仕事の打ち合わせでもよく使うらしく、店員とのやり取りにも慣れている。その様子を見ているだけで、康介は荒んだ気分になった。
美沙が医師として成功していることは、頭では分かっている。だが、こうして普段の暮らしぶりを目の前にすると、改めて格差を突きつけられた気がした。
飲み物が提供されるや否や、康介は鞄から納税通知書を取り出し、テーブルの上へ置いた。
「これ、どういうことだよ」
美沙がカップを片手に、書類を一瞥する。
「電話で言っていた固定資産税ね」
「俺を騙したんだろ。売れもしない物件を、俺に相続させてさ」
美沙はすぐには答えなかったが、やがて顔を上げ、呆れたように息をついた。
