怒りをぶつける康介

「相続のときに説明したわよ」

「聞いてない」

「私は説明した。わりと辺鄙な場所にあるってことも、古い建物が残っていることも、処分が簡単じゃないってこともね」

「だったら、なんで俺が知らないんだよ」

自然と声が大きくなり、近くの客がこちらを見たが、康介は気づかないふりをした。美沙は鞄から薄いファイルを取り出し、中の書類を数枚広げた。

「父さんの預金と有価証券、それから実家関係の財産。全部を評価額で整理して、私と康介で分けたでしょう。この土地と建物が康介の取得分に入ることも、ここに書いてある」

指で示された箇所には、確かに康介の名前があった。下の方には、自分の署名と印もある。

「こんなの、細かいところまで読めるわけないだろ」

「だから口頭で説明したの。維持費がかかることも、売れない可能性が高いことも」

美沙の言葉に、康介の頭の奥で曖昧だった場面が浮かんだ。父の葬儀後、美沙が実家の食卓に山ほど書類を並べていた。聞き慣れない言葉が続き、康介は途中からスマートフォンを眺めていた気がする。

「細かいことは任せるよ。俺の取り分が減ってなければいいから」

自分がそう言った記憶まで、遅れてよみがえった。康介は書類から目をそらした。

「でも、もっと分かるように言ってくれればよかっただろ」

口にした瞬間、それがひどい言い訳だと自分でも分かった。