相談なしに高額な買い物をするパートナー
2人で暮らす家探しは難航するかと思われたが、そこは不動産会社で働く大貴のさすがの情報力だった。大貴はああでもないこうでもないと瑠璃が物件情報を眺めているうちに、お互いの理想にぴったり合う物件を的確にリストアップしてくれた。
家賃や生活費は折半。料理や洗濯などの家事は当番制。――瑠璃たちはそんないくつかのルールを決めて、同棲を始めた。
仕事を終えて帰ってきた瑠璃はカレーを煮込んでいた。遅くなると言っていた大貴の帰宅時間を予想しながら作ったはずが、完成間近になってもまだ大貴の姿はない。
チャットに連絡をするが既読が付かず、瑠璃はカレーの匂いの満ちたリビングで、1人待ちぼうけを食らっていた。
カレーが完成してから30分がたったころ、ようやく返信があり、瑠璃はマンションのエントランスへ降りてくるよう呼び出された。何事かと思って外に出てみると、うっすらと汗をかき、笑顔の大貴が待ち構えていた。大貴の手元には見慣れない自転車がある。
「どうかしたの?」
「ほら、これ。ロードバイク」
ハンドルがカマキリの腕のようになっている赤い自転車を誇らしげに大貴は見せてきた。
「それ、何? どうしたの?」
「運動不足って前から言ってたじゃん。それでさ通勤を自転車に変えようと思って買ったんだ」
「へぇ、すごいね。こういうのっていくらくらいするの?」
「これ? これはさ、プロが実際にレースでも使うようなモデルでね、30万くらいだったよ」
涼しい顔で言った大貴に、瑠璃はがくぜんとした。
「……ん? え、30万⁉ それを買ったの? 黙って、何の相談もなしに?」
たぶん大貴は、瑠璃も一緒に喜んでくれると思ったのだろう。思わずとがった声に、大貴がたじろいだのが分かった。
「……え? な、なんで怒ってるの?」
「だって、こんな高いものをさ……」
瑠璃が文句を言うと、大貴は鼻で笑ってきた。
「いや、俺たちもう大人じゃん。なんで自分の稼いだお金を使うのにいちいち瑠璃さんの許可がいるの?」
「いや、まあそうだけど、でも……」
大貴の言い分は分かる。しかし釈然とはしなかった。
一緒に暮らしているのだから、一言相談があったっていいのではないかと思うのは、瑠璃の心が狭いのだろうか。
●お金の「価値観の違い」が露呈した同棲カップル。大貴と瑠璃の結末は――。後編【相談なしに高額な買い物をするパートナーはアリ? ナシ? 交際1カ月の同棲カップルに訪れた「意外な結末」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。