夫が勝手に買った高額商品
成海は原稿の締め切りに追われながらラップトップを叩いていた。ある程度目処が立ち、ひと息吐こうと伸びをしたとき、タイミングを見計らったようにインターホンが鳴り響いた。
玄関に向かった成海が扉を開けると、男性配達員が立っていて、その横には大きな段ボールが置かれていた。男性配達員の太ももくらいの高さで横は電子レンジ2個分くらいある。こんなに大きなものを買った覚えがなかった成海は思わず宛先を確認した。
伝票には泰輔の名前が書いてある。泰輔が何を買ったのか不審に思いながらも成海は段ボールを受け取った。
「あの、これかなり重いので、よろしければ中まで運びますよ」
配達員が申し訳なさそうにそう言ってきたので、成海は軽く段ボールを持とうとしてみたがびくともせず、お言葉に甘えて玄関のなかまで運び入れてもらうことにした。
「にしてもこれは何なのよ……?」
配達員が帰ったあと、大きな段ボールを前にして中身がいったい何なのか気になった成海はため息を吐いて独り言をつぶやいた。泰輔の荷物なので勝手に開けるのもどうかと思ったが、成海は中身を確認するために段ボールを開けた。
段ボールには、大きな機械のようなものが入っていた。ミルのような取っ手がついていることからコーヒーに関わるものなのかなと予想はできる。一緒に入っていた納品書を見ると、それが焙煎機であることが分かる。
「何なのこれ……!」
苛立ちから思わず言葉が漏れたのは、納品書に記載されていた金額のせいだ。
30万円。
成海がライターとして月に稼いでいる金額よりも多い額だ。それにそもそも台所にはこんな大きな機械を置けるようなスペースはない。仮に床に置いたとして、それでもかなり邪魔になることは明らかだ。
こんなものを買うのなら一度相談をしてほしかった。
成海は思わず立ちくらみがして、その場にへたり込みそうになった。
●凝り性な夫・泰輔が無断で高額な焙煎機を購入したことに驚きを隠せない成海。この買い物をきっかけに夫婦関係に溝ができてしまうことに…… 後編【「勝手なことして…」30万円の焙煎機がもたらした夫婦の危機…解決のために夫がとった行動は?】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
