<前編のあらすじ>

専業主婦の真子は、課長昇進を果たした夫・雅樹と息子・宏明との3人暮らし。自身はボランティア活動に打ち込む充実した日々を送っていた。

年末、会社の忘年会から帰宅した雅樹の服は汚れ、肩を震わせて泣いていた。部長から「無能」と罵られ酒をかけられたこと、上下の板挟みで誰も味方がいないことを涙ながらに打ち明ける。

真子は夫の苦しみに気づいてあげられなかった自分を責めた。雅樹の手を握りしめ、もう二度と辛い思いをさせないと心に誓った。

●前編【「誰も俺の味方をしてくれなかった」部長に酒をかけられ限界に…板挟みで居場所を失った41歳男性の絶望

ストレスで寝込む夫

幸い忘年会の後は長期休暇に入るため、雅樹の精神状態は徐々に回復をしていった。

しかし楽しそうな笑顔を見せるようになった一方で、真子は心配な気持ちを抱えてもいた。仕事が始まったらまた苦しい顔を見せるようになるし、本当に精神を壊してしまうかもしれないと思った。

そこで12月30日の夜に真子は雅樹に話し合いの場を持った。リビングに対面して晩酌をしているときに真子は自ら切り出す。

「これからどうしたいとか考えてることはある?」

真子の言葉に雅樹はうつむき唇を迷ったように動かしている。

「……戻ってもまた同じことの繰り返しになるんじゃない? 今の職場はあなたにとって良くない環境だと思うの。ていうか上司が部下にお酒をかけるなんてあり得ないよ。パワハラとして訴えてもいいくらいだし」

雅樹は力なく首を横に振る。

「……それじゃ何も変わらないよ。別に部長をかばうわけじゃないけど、部長だって上からコスト削減を命令されてるんだ。下の人間はそのせいで割を食って怒ってるし。構造上の問題で人を変えればどうにかなるって問題じゃない……」

「それじゃあ、あなたがまた苦しむことになるわ……」

辞めてほしいという思いが強かった。

それは追い詰めた一端が自分にもあることの贖罪と、もう二度と雅樹が辛そうに泣いてる姿なんて見たくないという思いがあったからだ。

雅樹だって退職という選択肢は絶対に頭の中にあるはずだ。ただこちらからそれを押しつけるのも違う気がした。

雅樹は真子を見つめて口を開く。

「……まあちょっと考えるよ。休みはまだあるしその間に考えはまとめてみる」

雅樹はなぜか退職という選択肢を選ぶことを渋っていた。理由は分からないがこちらから問い詰めるのはダメだと思ったのでそこで真子は引いて雅樹に委ねることにした。

ただ年が明けて仕事始めが近づくと雅樹は腹痛を訴え寝込むようになった。病院で見てもらった結果、雅樹は強いストレス反応があることが分かる。

そして医師からの助言を踏まえて会社に相談し、雅樹は休職という決断を下すことになった。