真子はキッチンで朝食を作りながら時計を確認する。家を出る時間の30分前だが夫の雅樹が寝室から出てくる様子はない。真面目な性格の雅樹は遅刻しないように常に早めに起きて準備をしているのだが、今日は違っていた。

真子は味噌汁を温めていた火を止めて寝室に向かう。雅樹は枕に顔を押しつけてまだ寝ていた。

「ねえ、もう時間だよ。早くしないと遅刻するって」

すると雅樹はゆっくりと寝返りを打つ。

「……頭痛いんだ」

「え? 何それ? 風邪か何か?」

真子は雅樹に近づき額に手を当てた。全くもって熱くない。

「全然大丈夫よ。起きたら痛みはなくなるわ」

「……ちょっと待って。起き上がれないくらいに痛いんだ」

雅樹はそう言って一切起き上がろうとはしてこない。真子は雅樹が不調を訴えるのが珍しいなと思った。

「どうする、今日は休む?」

しかし雅樹は力なく首を横に振る。

「……休みはしない。でももう少しだけ寝させてほしい」

「もう、何を言ってんのよ? そんなグズグズ言ってたら遅刻するわよ。せっかく課長になったんだから、しっかりしないとダメでしょ」

真子がそう発破をかけると雅樹は眉間にしわを寄せる。

「あなたのことをみんな頼りにしてるんだから。ほら、課長さん、がんばって」

すると雅樹はゆっくりと起き上がって洗面所へと向かっていった。

雅樹が起きたことに安心して真子は台所へと戻った。