聡は、はやる気持ちを抑えながら銀行から出た。

記帳した通帳のページをゆっくりとめくる。通帳を見るのにここまで気持ちが躍っているのは、いつぶりだろうと思う。通帳の記帳欄の一番下には、しっかりと今月分の給料がそのまま残っていた。

先月までは給料が入るとほぼ同時に、毎月10万以上もの金が引き落とされていた。

理由は借金だ。パチンコや競馬で600万の借金を作ってしまっていた。

10年近くの借金返済生活を終えて

長い道のりだった。きっと利子を含めれば総額は優に600万以上だろう。油断すれば利子で増え続けてしまう借金を返すための生活を、10年近く送ってきた。だがそれももう終わった。聡はすべての借金を返し終えたのだ。

聡は歩きながら消費者金融に電話をして、完済証明書を自宅に送ってもらうようにお願いをした。

これが大事だった。このために、聡は借金を返したのだ。

帰り道には大きなパチンコ屋がある。もちろん今までは、全てのギャンブル禁止を自分に課していたから、久しく入口をくぐってはいない。今日くらい……とうずいてくる気持ちもなくはなかったが、以前みたいに熱に浮かされたような気持ちにはならなかった。

代わりに、向かいにあるスーパーに立ち寄って酒とつまみを買いこんだ。いつもは発泡酒だったが今日はビールをたくさん買うことにした。ずっとどん底にいるような気持ちだったが、ようやく目の前が開けたように思えた。

   ◇

完済証明書が届いたあとの週末に、聡は封筒を持ってとある不動産屋に向かった。

着いたのは昼過ぎだったが、中には入らず、その周りをうろつきながら、ある人を待った。19時を過ぎて、ようやく裏口から見知った顔の女性が出てくると、聡の表情は思わずほころんだ。

「ひかり」

聡が声をかけるとひかりと呼ばれた女性は目を丸くして固まった。

「……何してるのよ?」

「ちょっとさ、お前と話がしたくて」

ひかりはつかつかと近づいてきて声を潜める。

「とにかく早くこの場所から離れて」

そう言ってひかりは早足で歩いて行く。聡はひかりの反応に不可解さを覚えながらついていった。