完済証明書という希望を打ち砕く現実

しばらくそのまま歩き続け、商店街が近くなってきたときにひかりは通常の歩調に戻した。話しかけてもよさそうな雰囲気を察知し、聡は笑いかける。

「元気にしてるか?」

「なんで職場に来るのよ? 来ない約束じゃなかった?」

聡は笑って謝罪をする。

「ごめんごめん。でも、どうしてもひかりと会って話がしたかったんだ。連絡先は知らないし、そうなると会社に行くしかないだろ?」

「やめてよ。もう私たちは夫婦でも何でもないんだから」

冷たい言葉だった。

確かにひかりと聡は離婚をしている。原因はもちろん、聡が作った借金だ。

「分かってるよ。でも、まずはこれを見てほしい」

そう言って聡は封筒をひかりに渡した。半ば押し付けられるように受け取ったひかりはようやく足を止めて封筒の中身を確認した。

「……何これ?」

「完済証明書。俺、ずっと借金を返してたんだ。お前と梨花に迷惑かけちゃって、離婚になって……反省して、ようやく返し終わったんだ」

離婚の原因が借金だとすれば、その借金がなくなった今、また元に戻れるはずだ。聡はひかりに復縁を持ちかけるために、店の前で待っていたのだ。

しかしひかりは表情を変えずに封筒を返す。

「そう。おめでとう。これが言いたかったことなの?」

「いや、これがってわけじゃなくてさ……。梨花はどうしてる? 元気か?」

「ええ。とっても元気よ」

再び歩き出したひかりの後を、聡は追いかける。

「あいつももうすぐ高校受験だろ? そうなると金だっていろいろかかるだろうし……」

聡はここで言葉を切った。だが出鼻をくじくように、ひかりの鋭い言葉が聡に刺さる。

「もしかして復縁しようとか思ってる?」

「……そ、それがお互いのためにいいんじゃないか? 子どものこともちゃんと考えないといけないしさ」

「ばかじゃないの? あなたとの復縁なんて絶対に無理だから」

ひかりからはっきりと向けられている敵意に聡は戸惑う。

「な、何を言ってんだよ? さっき、見せたろ? もう借金はなくなったんだよ」

聡はそう訴えるが、ひかりの表情は変わらない。

「何それ? もしかして借金がなくなったら復縁できるって思ってたの?」

ひかりの問いに聡は言葉が出なかった。そう思っていたし、それがあったから返済を頑張っていたのだ。聡は目の前のひかりの言葉が何一つ理解できなかった。ただ、復縁は難しそうだということだけが何となく理解できた。

●別れた妻と復縁するために借金を完済した聡。久しぶりに会った元妻に会い、提案は一蹴されてしまう。そして、離婚理由の真実を突き付けられることになる…… 後編【「借金がなくなったって変わってない」お金だけでは償いきれない過去…元妻が告げた離婚の真実】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。