<前編のあらすじ>

10年かけて600万円の借金を完済した聡。通帳に残った給料を確かめ、完済証明書の手配まで済ませた彼の胸には、離婚した妻・ひかりと娘・梨花とやり直したいという願いがあった。

家族を取り戻そうと、ひかりの職場を訪ねた聡に、返ってきたのは冷たい「無理」の一言。聡が期待していた「借金さえなくなればすべて元に戻る」という思いは、無残に打ち砕かれる。

聡は理由を理解できない。完済証明書では埋まらない“何か”が、確かに二人の間に横たわっていた。

●【前編】「借金さえ消えれば」600万円の借金地獄から這い上がった男が見た現実…元妻の一言が砕いた“再出発”

復縁が叶わず困惑する聡

「ちょっと待ってくれって。俺たちが離婚した理由は借金だろ? 俺はそれを頑張ってなくしたんだよ。梨花への養育費だって払いながらちゃんとやってきたんだ。なのに、なんでそんなことを言うんだよ?」

聡は必死の形相でひかりに気持ちを伝えた。ただ言われたひかりはまったく響いていないようで、むしろ呆れたような反応を見せてすらいた。

「それ、私が説明しないとダメなの? というか説明しないと分からないようなことなの?」

「そりゃそうだろ。俺はここまで頑張ってきたんだぜ。それは認めてくれるよな?」

「そうね。借金返済おめでとう」

そう言うとひかりはまた歩き出す。聡はすぐに横にぴったりとついて追いかける。

「それだけか? 俺はやり直したいと言ってるんだ」

「だからそれはないって言ってるでしょ。借金返済した分余裕もできたでしょ。1人で楽しく好きなことに使ったらいいわ」

ひかりはきっぱりと告げる。取り付く島すらなかった。

だが諦めきれるはずがない。この10年の努力はいったい何だったのだ。聡のなかで、沸々と怒りが沸き起こった。

「ひかり、分かった。でもちゃんと話せば分かるはずだ。そうだろ? 家はこの近くなのか? とりあえず座ってゆっくり話そう。梨花とも久しぶりに会いたいからさ」

辺りを見渡す聡にひかりは冷静に告げる。

「別にこの辺りに住んでるわけじゃないわよ」

「……え? じゃ、じゃあどうしてこんなところを……?」

「職場の前じゃ恥ずかしいでしょ。だから適当に歩いてるだけ」

ひかりがそう言うと聡は言葉を失った。

「あなたが諦めてくれたら私は適当な場所でタクシーを呼んで帰るつもりだから」

「なんでそこまでするんだよ……⁉」

「家族を守るためよ」

その一言を聞いた瞬間に、目の前が真っ白になった。それと同時に体中が熱くなる。