本当の離婚理由とは…

気がつくと聡はひかりの腕を思い切り掴んでいた。渾身の力で聡の腕を振りほどいたひかりの表情は恐怖と怒りで引きつっていた。

ひかりのこの表情に聡は見覚えがあった。

「あ、ご、ごめ……」

「そういうところ。借金がなくなったって、変わってないじゃない」

ひかりは後ずさり、聡から慎重に距離を取った。聡はひかりとの距離を詰めようとしたが、足が思うように動かなかった。

「俺がお前に手を上げてたから……!」

「そうよ。私だけじゃなくて梨花にも手を上げたでしょ。酒に酔っ払ったらいつもそうだった。私は何度もやめてほしいって訴えてた」

聡の脳裏に、当時の記憶が鮮明に蘇っていった。

どこかでギャンブルの借金で怒られたのだと思い込んでいた。しかし違った。勝手に記憶を書き換えてしまっていたと聡は思い知った。

「ギャンブルじゃなかったんだ……」

どの面を下げて再婚なんて口にするつもりだったのか。

聡は肩を落とす。

「……悪かったな。2人には迷惑かけちゃって」

「謝って許される問題じゃないわ。でも、分かったらもう二度と私たちの前に現れないで」

聡は唇を噛んだ。言い返せる言葉はなかった。

葛藤をしながらもはっきりと口に出す。

「真面目に養育費の支払いをしてるのは助かってる。正直、全く期待してなかったから。借金を返したのだってお疲れ様。でも、あなたがやったことは、何をしたってもう消えないの」

それだけ言うとひかりはまたどこかに歩き出した。聡は呼び止めたかったがそれをぐっと堪えた。

借金を返し終わっても何も変わらなかった。ただそれでも養育費は払い続けることだけは決めていた。どれだけお金を払っても埋まらない穴だったが、それしか聡にできることはなかった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。