対策をすると

さつきはむしった草を片付け、バスに乗って駅前の家電量販店に向かった。店員に事情と用途を説明し、屋外用の家庭用防犯カメラを買った。できればこんな人を疑ってかかるようなことはしたくなかったが、他に方法が思いつかなかった。

家に戻ったさつきはさっそく、取扱説明書の細かい文字を懸命に解読しながら防犯カメラを設置した。専用のアプリをインストールしてスマートフォンに同期させると、スマートフォンから防犯カメラの映像がリアルタイムで確認できる優れものだった。もちろん録画機能もあるし、暗闇でも動くものに反応してよく映るので、いつ犯人がやってきても平気だ。

もしあの人が生きていれば、「これなら庭に出なくても紫陽花が見られるな」とでも言ったかもしれない。そんなことを想像しながらさつきは自分をなだめてはみたが、やはり手折られた紫陽花を思うと犯人を許すことはできそうになかった。

とはいえ、犯人とて毎日のように紫陽花を盗みにやってくるわけもなく、延々と咲き誇る紫陽花を録画するだけの日々が過ぎていった。

ひょっとすると犯人も後悔しているのかもしれない。一生懸命育てられた人様の庭の紫陽花を手折るなんて非道をはたらいてしまったことを悔やんでいるのかもしれない。だとすればそれでもいい。思い出の紫陽花がこれ以上損なわれることなく、安心して咲けるようになるならば、それ以上のことはない。

だが、そんな風に思い始めた矢先、さつきは録画に映り込んだ人影を見つけた。周囲を警戒する様子もなく門扉を開けて庭に入ってきたその人は、ぐるりと紫陽花を見渡し、そのうちの1つを力任せに千切ったのだ。リアルタイムではないと知りながらも、さつきは息を呑んで、声にならない悲鳴を上げた。犯人は目当ての紫陽花を手に入れると、非難するように葉を揺らしている他の紫陽花たちには目もくれず、庭から出て行った。

さつきは傘も差さずに庭に飛び出し、折られた紫陽花を確認する。痛々しい断面に視線を落としながら、奥歯を噛みしめる。霧のような雨が降っていたが、ぬれたってかまわなかった。

犯人は、3軒となりの家に住んでいる西川という老婆だった。

●逡巡するも、さつきは西川のいる自宅を直撃することにする。あっさり罪を認めた西川がさつきに告げたのは、あまりに悲しすぎる犯行理由だった。不憫に思ったさつきは一計を案じ……。後編:【「娘と何年もあっていなくて…」夫との思い出の花を盗んだ老婆を問い詰めて分かった「切ない動機」】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。