庭の紫陽花が……
異変に気付いたのはその日の午後だった。
久しぶりの晴れ間だったので、庭のあちこちに生えている雑草を抜こうと外に出た。ずっと同じ体勢でいると痛みを訴えだす腰やひざに年齢を感じる。健康には気をつけているし、元々の身体の丈夫さにも自信はあるが、いつまでこうして草むしりができるだろうかと固まった腰を叩く。持ち上げた視界に紫陽花が映る。折れた茎の断面が、さつきのほうを向いていた。
さつきは腰の痛みも忘れて駆け寄った。折れた茎に伸ばした手は小さく震えた。紫陽花に触れた指先から、苦痛が伝わってくるようだった。茎の断面ははさみで剪定したというよりも乱暴にむしり取ったような痕になっていた。
しばらくのあいだ、さつきはその場に呆然と立ち尽くしていた。太陽は流れる雲の向こうに隠れ、庭は薄っすらと暗くなった。許せない――やがてさつきはそう思った。
たしかに、丁寧に世話をし続けている甲斐あって、我ながら立派に咲いた紫陽花だと思う。だがこの庭はれっきとしたさつきの家の敷地のなかだ。勝手に入っていいわけがないし、もちろん紫陽花を千切って持ち去っていいはずがない。
犯人に文句の1つでも言ってやらなければ気が済まないと思った。紫陽花が夫との思い出の花であることを、その紫陽花が立派な花を咲かせられるように手間暇をかけて育てていることを犯人に伝え、もう2度とこんなひどいことをしないと約束してもらわなければならないと思った。