昨晩遅くまで降っていた雨のために、朝、さつきが庭に出ると紫陽花が陽光を受けてつややかに光を帯びていた。

「今年も立派に咲きましたね」

誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。さつきの言葉はどこにもいかず、見上げた空に広がる分厚い雲のようにいつまでも庭に残り続けている。

紫陽花は一昨年の春に病気で亡くなった夫が好きだった花だった。庭の花になんてちっとも興味を示さない人だったのに、梅雨のこの時期になると特に用もなく庭に出てみては、ゴルフの素振りをする振りをしながら咲き誇る紫陽花を眺めていた。

だからあのときも、さつきはあと3ヶ月頑張ろうと夫を励ました。たくさんの管に繋がれた夫は少し苦しそうに笑うだけだった。けっきょく、さつきの言葉は奇跡を起こすことはなかった。

あの人も天国で見ているだろうか。

つい先日、夫と同じ61歳になったばかりのさつきは、そんなことを思いながら灰色の空を見上げ、その向こうでこちらを見下ろしているだろう夫のことを思った。