<前編のあらすじ>
さつきは梅雨の時期になると咲き誇る庭の紫陽花を見つめていた。病に倒れ春先に61歳で亡くなった夫が好きな花だった。
夫のとの思いでを浮かべながら紫陽花を大切に育ていたのだが、ある日、そんな紫陽花の花が乱暴にむしり取られているのを見つけてしまう。
さつきは怒りに震えた。庭に勝手に踏み入られたのもさることながら、思い出の花を乱暴に持ち去られたのが許せなかった。そしてホームセンターで防犯カメラなどを買い込み、「犯人」探しに奔走する。
とうとう犯人の正体が分かった。防犯カメラに写っていたのは三軒隣に住む西川という老婆だった。
前編:「許せない」病に倒れた夫が愛した紫陽花が無残な姿に…怒りに震える妻が暴いた「まさかの犯人」の正体
犯人の自宅を直撃
インターホンの固い音がじめじめとした空気に吸い込まれていった。さつきは深く息を吸って、吐いた。
家庭用防犯カメラであっさりと紫陽花泥棒を特定してしまったさつきは、どうしようか迷った末に西川の家を訪れていた。
もう1度インターホンを押し、しばらくのあいだ待つ。これで出てこなければまた出直そうと思ったが、門扉の奥に見えていた玄関扉がゆっくりと開き、腰の曲がった白髪の老婆――西川が姿を現した。
「あら、東野さん。こんにちは」
西川は門扉までやってきて、さつきを中へ招き入れた。さつきは身構えていた。西川の雰囲気は特段いつもと変わらないように見えた。紫陽花を手折ったことに罪の意識を感じていないのだろうか。だとしたら尚更許しがたいと思った。
「あのう、西川さん。うちの庭の紫陽花のことで、ちょっとお話があって」
「紫陽花……」
「西川さん、うちの庭に入って、紫陽花を千切って盗みましたよね? ちゃんと防犯カメラにも映ってて」
さつきは西川にスマホの画面を見せた。表示している録画は、ちょうど庭に入ってきた西川が紫陽花を千切ろうとしているところで止めてある。言い逃れをさせるつもりはなかった。
「この紫陽花、一昨年病気で死んだ夫が唯一好きだった庭の花で、私たち夫婦の思い出の花なんです。だから、こんなひどいこと、許せません」
西川に一歩詰め寄った。西川の表情が強張った。
しばらくのあいだ、2人はにらみ合っていた。だがやがて、観念したように息を吐いた西川が顔を皺だらけにして肩を落とした。
「ごめんなさい。つい、魔が差してしまって……だってあまりに綺麗だったから」
「そんなの理由にならないですよ。それに、盗んだのだって1回じゃないじゃないですか」
「そうよね。してはいけないことをしたのは分かっています。本当にごめんなさい。でもね、オタクの紫陽花を見ていたら、わっと、小さいころに紫陽花をプレゼントしてくれた娘のことを思い出しちゃってね、それで……、ああ、本当にごめんなさい」
西川は肩を落とした。ふりではなく本当に反省しているように見えたから、そして西川の表情がとても寂しげに見えたから、さつきもそれ以上責めようとは思えなかった。