犯人が語った娘との思い出

「娘さんですか」

「ええ。私、昔からこの季節は気圧だなんだで体調がよくなくてね。そうしたら、あの子、お母さん元気出してってお小遣いで紫陽花を買ってきてくれたのよ。私、嬉しくて、嬉しくてね。言い訳にはならないって分かってるけど、お宅の紫陽花見てたら急に寂しくなっちゃってね……」

紫陽花は、きっと彼女にとっても思い出の花なのだろう。そう思ったら、独りでこの家に住んでいる西川のことが他人事には思えなくなっていた。

「分かってもらえたならいいんです。もうやらないでください」

「分かってます。旦那さんとの思い出を汚すようなことをして、本当に、本当にごめんなさい」

「もういいんです。紫陽花仲間ですから。娘さんはお元気にされてるんですか?」

「さあ……もう何年も会ってないからねぇ。忙しいみたいだし、再婚するって言ったときにえらい揉めたから、私、嫌われちゃって。私もバカだよねぇ。あの子が幸せなら、なんだっていいはずなのに」

なんとなく話題を変えようと思って口にしたことだったが、西川の表情はさらに曇っていった。見れば、西川の家の玄関前に置かれた鉢植えは植物が枯れたまま放置されていた。

「そうですか……」

「情けない話だけど、さみしかったのかしらね。それで、こんなみっともないことをしてしまったのかしらね」

2人は黙り込んだ。やがてぽつぽつと雨が降り出した。

「あら。濡れちゃうわ。傘あげるから、よかったら使ってくださいな」

西川が鈍重な動きで玄関に戻ろうとする。さつきはほとんど思いつきのまま、西川を呼び止めた。

「あの、西川さん。また会いたくありませんか? 娘さんに」

「ええ、まあ、そりゃ会いたいですよ。今となってはたった一人の家族だもの」

「私に考えがあるんです」

さつきが言うと、西川は首をかしげていた。