<前編のあらすじ>

80歳の父・隆さんに“異変”が見え始めたのは、美咲さんが帰省した日のことでした。

冷蔵庫には賞味期限切れの総菜が並び、同じ食品を何度も買い込む姿も。さらに「昨日、母さんと買い物に行ったんだ」と、亡くなった妻の名を口にします。

診断は中等度の認知症。一人暮らしは難しく、施設入居を決めますが、年金と預金だけでは費用が不足します。そんな中、父のNISA資産が2000万円超になっていたことが判明。しかし、新たな問題が襲いかかってきます。

●前編:「昨日、母さんと買い物に行ったんだ」父の“異変”に気づいた家族に訪れた束の間の安堵、そして予期せぬ困難へ

NISA資産の“凍結” 家族は1円も動かせない

美咲さんは銀行の担当者に頼み、投資信託等をすぐに売却して現金化したいと考えていました。しかし、銀行員は申し訳なさそうにこう答えたそうです。

「ご本人の意思確認ができない以上、家族であっても手続きはできないんです。認知症の場合は、成年後見人を立てていただく必要があります」

耳を疑う返答でしたが、銀行の立場としては認知症であることを知ってしまった以上はこのように対応せざるを得ません。

美咲さんは市の地域包括支援センターへ相談し、ようやく社会福祉士が後見人として紹介されました。

しかし、担当の社会福祉士からは「投資商品の売却はお父様にとっての“損失”になる可能性があり、私たちだけの判断ではできない」との回答を受けたのでした。

その結果、社会福祉士が家庭裁判所に確認し、ようやく父の資産を使うことができるようになりました。

父が認知症と診断されてから、NISA資産が現金化されるまでに半年以上の期間を要したのです。

自分たちの貯金から父の施設費を立て替えることも覚悟していたそうですが、やっと父の資産を使うことができるようになり、美咲さんは深いため息をつきました。

「父のお金なのに、どうしてこんなに大変なんだろう……」