<前編のあらすじ>
絵実は恋人の雅俊との結婚を控えていた。幸せな日々を過ごしている絵実だが、一つだけ気がかりがあった。結婚式だ。
決して高年収ではない二人にとって一度に数百万円の出費が必要になる挙式・披露宴を開催することは現実的ではなかった。
しかし、である。絵実の母・好美の考えは違った。絵実は二人の意見を丁寧に伝えるのだが好美は決して聞き入れない。それどころか、挙式を上げられるほどの収入がないことは惨めであり、雅俊との結婚が間違いだとまで言い始めた。
絵実も黙ってはいられず、つい怒鳴り返してしまう。もちろん、母が自分を思って言ったのだと、頭では理解している。とはいえ、先立つものはない。いったいどうすればよいのか……。
前編:「惨めで可哀そう」結婚式を巡り母の心無い言葉に傷つけられた新婚夫婦が、それでも挙式に前向きになれない「複雑な事情」
そんなお金はない……
絵実は母を追い返して静かになったリビングで独り、ため息をついた。
もちろん何がなんでも結婚式をやりたくないというわけではない。母や祖父母が喜んでくれる姿は目に浮かぶし、里奈たち友人も楽しみにしてくれている。ただ費用が掛かりすぎるので、それならもっと有意義な使い方があるだろうと考えているだけだった。
もちろん、自分たちに潤沢な貯蓄があれば式を挙げるくらいはやるのだが、現実問題、絵実たちにそんなお金はない。結婚をしてからも色々とお金はかかるのだから、挙式費用の優先度はおのずと低くなる。
ただこのまま式を挙げないと、好美との関係修復はできそうにない。なんとかできないかと考えてはみたものの、具体的な方法は思いつかず、もう1度雅俊にも相談してみることにした。
「ねえ、式のことなんだけどちょっといい?」
仕事から帰ってきた雅俊がひと段落ついたころ、絵実は満を持して声をかけた。
「お母さんがね、やっぱりどうしても式は挙げてほしいみたいなの」
絵実がそう言うと雅俊の顔は曇る。
「……そうか。まあそれはそうだよな……」
「そっちのお義母さんはなんて言ってるの?」
雅俊は軽く頭をかく。
「うちはまあ、何となく事情を説明したら分かってくれたよ。でもまあ、ちょっと寂しそうではあったけど」
「やっぱり子供の結婚式には参加したいものなのかもね」
雅俊は腕を組んで深くうなずいた。
雅俊は母子家庭で育っている。そんな手塩に掛けた息子の結婚式にはやはり参列したいと親なら思うのかもしれない。
「……やっぱり式って挙げた方がいいのかなぁ」
「……うん。まあそうなんだろうけど、でもお金がなぁ……」
雅俊の言葉に絵実も押し黙る。
そうなのだ。こればかりは気持ちでどうこうできる話ではなかった。お金を用意できなければ式を挙げる事は不可能だ。
結局この日は答えを出すことはできなかった。