父から連絡が
そんな悶々とした日々を過ごしていると珍しく父の秀夫から電話が掛かってきた。
「母さんと喧嘩したんだろ?」
開口一番、秀夫は落ち着いたトーンで聞いてきた。秀夫はあまり口数は多くはなく、家でも好美と絵実の聞き役に徹していた。ただこうして事態が思わぬ方向に行きそうになったときは秀夫が出張って解決や鎮火のために動いてくれる。だからこそ絵実は秀夫のことをとても信頼している。
「……うん。母さんから聞いたんでしょ?」
「ああ。まあ母さんも色々と熱くなったみたいだけどな。雅俊くんのことを悪く言ったんだろ? それは悪かった。俺から母さんを注意しておいたから」
「……うん。雅俊だって一生懸命働いてくれてるしさ、ああいう言われ方をするとさすがにムカつくよ……」
秀夫は「ごめんな」ともう1度謝ったあとで、「ただな」と申し訳なさそうに言葉を継いだ。
「ただ、母さんとしてはやっぱり結婚式を挙げてほしいと思ってるんだよ」
「……それは分かってる。親としてはそうだよね」
「やっぱりいつまで経っても子供に対しては心配の気持ちがあるんだ。結婚したとしても大丈夫なのか、ちゃんとやっていけるのかってな。でも目の前で素敵な式を挙げてもらえれば、それを見るだけで親は安心した気持ちになれるんだよ。随分と安直だとは思うけどさ」
「……そうなんだ」
秀夫の言葉は、絵実も腑に落ちた。
両親に晴れ姿を見せることで安心をさせる。結婚式をそんな風に考えたことは一度もなかった。お金がないというのはやっぱり自分本位な考え方だったのだろうか。今まで育ててくれた両親への恩返しのために式を挙げる。そう考えれば、結婚式も悪くないものかもしれないと思える。