<前編まとめ>

大手自動車会社で働いていた松下沙耶香さん(仮名・25歳)は、表向き“理想の上司”とされていた横山課長から、密室でのハラスメントを受けていました。

言葉の暴力、身体への執拗な接触、性的な発言……。それでも証拠がないため誰にも相談できずに退職代行に依頼してきました。表向きの退職理由は「ほかにやりたいことが見つかった」から。

これまで何度も利用されてきた会社だったため、事務的に処理されるだろうと思っていたところ、電話口の人事担当者からは意外な言葉が返ってきます。

●前編:「ほかにやりたいことが見つかった」ウソの退職理由をつくしかなかったZ世代女性に訪れた “静かな逆転劇”

ハラスメントを疑っていた人事部

「これまで弊社社員が退職代行を使った理由を詳しく話を聞かせてもらえませんか? もちろん有償でかまいません」

人事部はすでに横山課長の部署で退職代行の利用者が相次いでいることを把握していました。「これだからZ世代は……」という彼の言葉を鵜吞みにせず、ハラスメントの疑いをかけていました。

もちろん私たちから提供できる情報は依頼者の承諾を得た内容のみですが、こちらのもっている情報と人事部が独自に調査した結果を照らし合わせるだけでも、十分にハラスメント行為を裏付けられました。

「本部にはいつも良い顔をして、物腰も柔らか。なかなか尻尾をつかめずにいましたが、ようやく同僚たちがやめていった理由を突き止められました」

横山課長は人事部からの追及を受け、当初は「覚えていない」「勘違いだ」と否定を繰り返していましたが、証拠が積み上がるなかで弁明の余地をなくし、最終的には地方の関連会社に左遷されることになりました。