俺たちからも少し……

「まあ正直、俺もお前がウエディングドレスを着てるところは見たいって思うよ」

「……うん、分かるよ。分かるけどさ」

もう両親の気持ちは痛いほどによく分かっていた。けれどないものはどうすることもできない。

「でも色々と2人が大変なのは分かる。だから結婚式を挙げてくれるつもりなら、俺たちからも少し資金を出すよ」

「えっ……⁉」

両親だってそんな経済的に余裕があるわけではない。

「言うなって言われてたんだけど、これはな、母さんからの提案だ。なんか母さんな、いつか必要になるかもってへそくりを貯めてたんだと。こないだはその話をしに行ったはずなのに、お前と喧嘩しちゃって、後悔してたよ。それに母さんは、自分たちよりも向こうの親御さんを安心させてあげてほしいって思ってるみたいだ」

雅俊の家庭事情は好美も良く知っている。同じ女性だからこそ、女手ひとつで息子を育ててきた苦労を想像できるのかもしれない。

「どうだ? これで式を挙げる方向で考え直してくれないか?」

「……うん、分かった。雅俊とも相談してみる。ありがとうね」

この瞬間に絵実の中で覚悟はしっかりと決まった。

その日の夜、絵実は雅俊に事情を伝えた。

絵実の両親からの軍資金の話を聞いた雅俊は申し訳なさそうに眉間に皺を寄せた。

「俺がふがいないばっかりに、本当に申し訳ない」

「雅俊のせいじゃないよ。私たち2人で相談して決めたことなんだから。でも、結婚式を挙げてほしいっていう親の気持ちもよく分かるし、自分たちが祝ってもらうためじゃなくて、育ててくれた親に感謝するための結婚式があってもいいのかなって今は思ってる」

絵実が考えを伝えると、雅俊も「そうだな」と頷いた。

「あれから俺も考え直してみたんだ。そんで、周りの人にも聞いてみたんだけど、費用はけっこうご祝儀でとんとんにしたって人が多いんだ。で、計算してみたんだけど、40人くらいを呼べればご祝儀とお母さんたちからのお祝い金で式の予算はまかなえると思うんだよね」

雅俊の言葉に絵実は強くうなずく。

「あとは、招待状とか装飾とか自分たちでやるっていうのもありみたい。その分準備は大変になるけど」

絵実は雅俊が真剣に考え、なんとか結婚式を挙げることができないかと考え続けてくれていたことが嬉しかった。

「あとは、プランナーさんに相談かな。式場の選定もしないとだから、けっこう忙しくなるね」

「そうだね。でも私たちらしい、いい結婚式にしようね」

「もちろん」

結婚式を挙げても挙げなくても、お金があってもなくても、絵実たちの幸せな未来は変わらないのだと思えた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。