<前編のあらすじ>

隆宏と妻の千秋は不妊に悩んでいた。いろいろと手を尽くすもののなかなか子供を授からない。いかんともしがたい思いを抱えたとき、隆宏が手に取るのが16歳のときから吸っている煙草だった。

しかし、とうとう千秋にとがめられ、「子供ができないのは煙草を吸っているせいだ」とまで言われてしまう。ついに禁煙を決意した隆宏だが、飲み会の席で部長から「今日は無礼講だ」と煙草を差し出されてしまい……。

前編:「ちょっとまだ話をしてるでしょ?」愛煙家を禁煙に至らせた不妊治療で苦しむ「妻の一言」

部長が煙草を差し出してきて

「ほら、吸えよ。今日は無礼講ってことでさ」

部長はそう言って煙草をこちらに向けてきた。

1本だけなら問題ないと思える。しかしこの1本で自制心が壊れてしまい、再び喫煙生活に戻ってしまいそうな気もする。だがそれが何だというのだろう。確かに健康には悪いが、自分の身体だ。煙草を吸いに喫煙所に足を運ぶことで生まれるコミュニケーションもある。煙草は百害あって一利なしとよく言われるが、決してそんなことはない。

しかし隆宏が煙草を手に取ることはなかった。

「いや、ほんとに大丈夫です。ちょっともうさすがにやめないと嫁さんに怒られますから」

そう言うと部長は「悪かったな」と隆宏の肩を叩き、自分のジョッキを片手に他の

テーブルに移動していった。

隆宏は大きく息を吐き出した。

危なかった。もし仕事が立て込んでいて疲れが溜っていたり、もう少し酒が回っていて判断力が鈍っていたら確実に煙草を受け取っていたと思う。断れたのはタイミングが良かっただけで、決して意志が強いというわけではない。

このまま自制心だけでこのまま禁煙を続けていくのは難しいかもしれない。そんなことを考えながら帰りの電車に揺られていると、隆宏の目に禁煙外来の中吊り広告が目に留まった。