中に入っていたのは

隆宏が促すと、千秋は箱を開けていく。中身は3つのペアリングが入っていた。

「え、これって……」

「ベビーリングも合わせたペアリング。赤ちゃんが生まれたときに子供にはめるようの指輪」

千秋は隆宏の説明を聞いた瞬間に目を潤ませた。

「気、早くない……?」

「ベビーリングって子供が産まれますようにっていう願掛けで買う人もいるんだって。だからこのタイミングで買おうって思ったんだ」

「ほんとどうしたの急に。高かったでしょ」

「いやそんなに高いもんじゃないよ。それに、前から買うのは決めてたし」

「前から?」

「俺、禁煙始めたんだ。で、今まで煙草にかかってたお金で、千秋と家族のために何かしようと思って、浅はかかもしれないけど、これでもちょっとは考えたんだ」

3ヶ月の禁煙で浮いた6万円。額にしてみれば全く大したことはなかったが、それでも隆宏にとっては大きな意味を持つお金だった。

「……今までごめんな。正直俺、不妊治療に対してどこか他人事というか千秋が頑張るものだって思ってたんだ」

千秋は複雑そうな顔でうなずいた。

「……うん、それは何となく分かってた」

「俺ここ最近、病院に行ってたんだけどそこには産婦人科もあってさ。皆が不妊治療をしてるとは思わないけど若い夫婦がさ、寄り添いながら産婦人科から出てくるところを見たんだよ。俺はずっと千秋を1人で頑張らせてたんだなって思い知ったんだ」

千秋は首を横に振る。

「……そんなことないよ。私だって全然治療の成果が出なくて、段々悪いのは隆宏だって思い込むようになってさ。……煙草だって私が言ったからやめたんでしょ?」

「……や、やっぱり気付いてた?」

「だって、明らかに匂いがしなくなってたし。そうやって私のためにやってくれてたのに私は意地張って謝ることができなくて……。冷静に考えたら、子供ができない原因だって隆宏の煙草って決まったわけじゃないのに……」

うつむく千秋を隆宏はそっと抱きしめた。

1ヶ月が経っていた。

隆宏は玄関で先に靴を履き、千秋がパンプスを履くのを待つ。

医師からの説明を聞く限り、この日から始めることになっている体外受精は体にそれなりの負担が掛かる治療行為らしく、千秋は昨日の夜からずっと不安そうな顔をしている。

「無理しなくていいからな?」

「……ううん、大丈夫。だって子供ほしいもん」

そう言って覚悟を決めた千秋の手を取り、隆宏は玄関のドアを開く。空は青く澄んでいて、遠くの空を白い鳥が横切っていった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。