美穂は人の少ない公園で作ってきた弁当を食べる。特筆するような弁当ではないが、何よりも幸せだ。少し前までは、スーパーで半額以下の値引きシールが貼ってある惣菜を詰めていたごく質素な弁当だったのだから。

高校を中退して以降、もう15年近く清掃会社で仕事をしている。週3程度、清掃と並行してお酒を出すお店で働いたこともあった。この15年、寝ている時間以外のほとんどを、仕事のために使ってきた。お金を稼がなければいけない理由があったからだ。

だがそれもすべて、もう遠い昔のことのように思える。

お弁当を食べ終えた美穂が職場であるオフィスビルに戻ろうと時間を確認すると、スマホには1通のメッセージが届いていた。今夜の予定を確認する丁寧な文面に、美穂は思わず笑みをこぼす。

ほんの少し前まで、美穂は働きづめのまま人生を終えるのだろうと思っていた。しかし美穂の人生は大きく変わったのだ。