衝撃の告白
こうして付き合うことになった2人は、間もなく辰巳が暮らしていたマンションで同棲を始めた。辰巳はすぐにでも借金を返すとお金を用意してくれようとしていたけれど、美穂はまだ付き合い始めたばかりだからと丁寧に断って働き続けていた。それでも美穂は間違いなく幸せだった。まだ手に入れた幸せに戸惑うことも多かったが、美穂は毎日を噛みしめて生きていた。
清掃会社の仕事から帰った美穂は休む間もなく夕食作りに取り掛かる。献立は辰巳の好物であるスペアリブだ。
家事なんてハウスキーパーに頼めばいいのに、と辰巳は言っていたが、こうして手を動かしてバランスを取っていないとすぐにこの幸せが手から離れていってしまいそうな気がして怖かった。
スペアリブが出来上がったころ、玄関の扉が開き、辰巳が帰ってくる。濡れていた手を拭いて玄関まで出迎えに行くと、辰巳は疲れ切った険しい表情をしていた。
「結弦さん、どうかしたの?」
辰巳はそのまま何も言わずに部屋に入り、ソファに座り込んだ。美穂は辰巳の横に座り、辰巳の手を取る。
「……仕事で何かあったの?」
辰巳は首を横に振る。
「……何かあったのか話せない?」
「……ごめん」
「え?」
「俺さ、許嫁がいたんだ」
辰巳の言葉に美穂は戸惑った。
「今日、久しぶりに父さんに会ったんだ。そしたら、そろそろその許嫁と結婚するようにって父さんに言われたんだ」
美穂は辰巳の言葉に頭が真っ白になった。
●辰巳が美穂に告げたのはいわば政略結婚のような形で、政財界にコネクションを持つ人物の娘と結婚するよう父に言われているということだった。辰巳の父を尊敬する気持ちや仕事にかける思いを知る美穂は身を引く決意をするのだが……後編:【御曹司との玉の輿婚のはずが、30代女性に告げられた衝撃の事実…そして女性が涙した御曹司の決断とは】にて詳細をお届けする。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。