<前編のあらすじ>
惟子はスーパーからかかってきた電話に動揺を隠せないでいた。スーパーの店長を名乗る電話口の男が言うには父が万引きをしたのだという。しかも、一度や二度のことではないとも。スーパーの店長は惟子が父を迎えに来なければ、警察に通報することまで匂わせていた。
厳格だった父がなぜ……。
父を実家に連れ帰った惟子は、退職後、母を亡くし、一人で暮らす中で父がいかにして追いつめられていったのかを知るのだった。
前編:父の日のプレゼントを受け取り拒否するほど厳格だった父がまさかの万引き…老父を追い詰めたものの正体とは
父と連絡を取っていなかったせいなのか
翌朝、惟子は何事もなかったかのように出勤した。いつも通り仕事をこなしていたが、ふとした拍子に昨日の父のことを思い出してしまう。
父は痩せ細って、まるで別人のようになっていた。頑固で、理屈っぽくて、他人の感情なんておかまいなしだった父の、あんなに寂しい独白を聞くことになるなんて思いもしなかった。
「今まで放っておいたツケがまわってきたのかな」
独りごとのように呟きながら、惟子はキーボードを打つ手を止めた。
母が亡くなってからというもの、父とはほとんど連絡をとっていなかった。父から帰ってこいと言われたことはなかったし、会わなくても何も困らなかった。それなのに今さら、こんな形で父と向き合うことになるとは、想像もしていなかった。
集中できないまま仕事を終え、帰宅した部屋は変わらず静かだった。洗濯機の音、湯が沸く音、テレビの向こうから流れてくるニュースの声。全部が、どこか遠くに感じられた。