オフィスは空調が効きすぎていて、ストッキングに包まれた爪先が冷たい。惟子は整理していた書類から顔を上げ、机の上で震えるスマートフォンに目をやった。見知らぬ電話番号だったので、一瞬出るべきか迷ったが、惟子は不審に思いつつ、そっと通話ボタンを押した。
「……もしもし」
惟子が応じると、電話口の声は地元にあるスーパーの店長だと名乗った。
「お父様の有川雄志さんがですね……申し上げにくいのですが、店の商品を……レジを通さずに……お持ち帰りになろうとして……」
彼は言葉を濁していたが、容易に理解できる。要するに万引きだ。声が裏返りそうになるのに堪えながら、努めて冷静に切りかえす。
「何かの間違いじゃないですか。父はそういう人間では……」
「実は……今回だけでなく、何度か似たようなことがありまして……防犯カメラでも確認しております」
「え……」
惟子は二の句を継げなかった。