「家族」のあたらしい住まい

それから一馬と美和子の不仲は解消される。

そして一馬はいつものように仕事を続ける。一方で家探しのほうは美和子にお願いしていた。

そんなある日、美和子がとある物件を見せてきた。

「……何これ?」

「私たちが住む家の候補よ。どうかなと思って」

しかし一馬は困惑していた。

「いや、これ、マンションだよ」

「うん、私もね、一戸建てに固執するのは止めたの。一馬の言い分も理解できるし」

「そ、そうなんだ。確かにいいところだよね。中古だけどのリノベされてて、きれいだし」

一馬が笑いかけるが、美和子の顔は複雑そうだ。

「ここからだと、また通勤に時間がかかっちゃうね……」

「そんなこと、気にする必要はないよ。家から駅までの距離が縮まるから、通勤時間自体はそんなに変わらないしね」

「……ありがとう」

一馬は美和子の頭に手をのせる。

「俺と美和子の2人で決めたことだ。何も気にする必要はないよ」

一馬の言葉を聞き、美和子はうれしそうにうなずいた。

その後、一馬たちはマンションの内見に向かい、そこのマンションを購入することに決める。

こうして2人の新しい生活が始まった。

その中で1つ、予想していなかったことがあった。

引っ越しをしたことで、電車がすいている状態で乗車できるようになったのだ。

これにより同じ満員電車でも座った状態で通勤することが可能になり、以前よりも通勤の負担が軽減されることとなった。

引っ越しをしてから数日後、一馬は仕事から帰宅する。

「ただいま」

家に帰る声が明るい。これも通勤のストレスが軽減された効果だ。

するとうれしそうな笑顔で美和子が迎えてくれた。

「どうしたんだ? 今日はやけに楽しそうだな?」

「うん。あのね、今日、産婦人科に行ってきたの」

その言葉に一馬の鼓動が跳ね上がる。

「え?」

「子供、できてるって」

はにかんだ美和子の手を一馬はすぐに取る。

「ほ、本当に⁉」

「うん。私たちの子供、だよ」

「やったー!」

そこから一馬と美和子は手を取って喜んだ。

美和子の手の温かさを感じながら、一馬は子供と美和子、どちらも幸せにできるように頑張ろうと決意を固めた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。