のり弁当とコロッケ弁当のふたを閉じている輪ゴムにそれぞれ割りばしを通し、ビニール袋にしまう。670円。トレーの1000円札を受け取って、330円のお釣りを返す。

「いつもありがとうございます!」

近くの工事現場で働く人だろう。日に焼けた分厚い手で弁当を受け取った2人組は、お釣りをつかんだ手をポケットに突っ込んで立ち去っていく。

「のり弁当をひとつ」

「のり弁当ですね、ありがとうございます」

吉田早苗はサラリーマンに笑顔を向ける。

お昼のピーク時でお弁当はほぼ完売になる。14時を過ぎれば荒波の勢いで押し寄せていたお客さんも落ち着き、みんなが夕飯の総菜を買いに動きだす16時ごろまでは一息吐くことができるようになる。

「吉田さん、休憩しておいで」

厨房(ちゅうぼう)から小原さんの声がする。小原さんは厨房(ちゅうぼう)奥のシンクに向かい、大きな鍋を洗っていた。

「ありがとうございます。休憩いただきます」

早苗は小原さんに声を掛け、お店の裏の休憩スペースへ向かう。今日は天気がいいから裏口前のベンチでのんびりすることにした。

朝用意してきたおにぎりと麦茶を入れた水筒を脇に置き、ベンチの上に腰かける。降り注ぐ太陽の光は穏やかで、左肩のあたりがじんわりと熱を持ち始めるのを感じる。早苗は小さくあくびをする。ふと、自販機の前にしゃがみ込んでいる男の子と目が合った。