景色が流れていく度、夏子のため息はどんどん深くなっていく。
そのたびに車の窓は白く曇った。
隣で運転をしている夫の徹は何も分かっていないのか、軽快に運転をしている。
「夏子、どうしたの?そんなに暗い顔をして」
「そりゃ、こんな顔にもなるわよ」
今、夏子たちが向かっているのは徹の実家だ。年末年始は必ず徹の実家で過ごすことが習わしとなっている。
古くから続く名家のようで、多くの親族が集まり、夏子もその一員として参加をしていた。
「何も嫌な事なんてないだろ? 年末年始の忙しいときにさ、おいしいものを食べて、ダラダラしているだけでいいんだから」
「それだけなら、私だってこんな風にならないわよ」
ほんと、いい気なもんね。夏子は心の中で夫を毒づく。
徹の実家に着けば、必ずあの話題に触れざるを得ない。そのときに自分がどう立ち振る舞うのか夏子は助手席でそのシミュレーションを繰り返していた。
そうこうしているうちに徹の実家に到着する。2人で玄関に向かうと、徹の母のハツと夫の妹の宮子が出迎えてくれた。
「あらあら、よく帰ってきたね~」
「運転、疲れたでしょ? 部屋に荷物置いたら客間に来て。おいしいお菓子があるから」
ハツと宮子は笑顔で声をかけている。しかし2人の視線に自分が入っていないことにはすでに気付いている。
「お久しぶりです。お義母(かあ)さん」
仕方なく、夏子は声をかけた。するとハツは柔和な表情を止めて、真顔になる。
「ああ、どうも」
それだけしか言わなかった。宮子は夏子の存在など端から感じてないとも言うように部屋の奥に戻っていった。
この出迎えの雰囲気だけで、暗たんとした気持ちになった。