病弱だった妻の子ども時代
美和子の実家は車を走らせて5、6時間程度の田舎にある。その長時間、特に会話のない車中では苦し紛れにつけたラジオの音と勤勉に動き続けるクーラーの駆動音だけが流れていた。
何も知らない美和子の母、好美は俺たちを優しく出迎えてくれた。
「わざわざありがとうね。一馬さんもせっかくのお休みなのに」
好美はそう言ってねぎらいながら、お茶を出してくれた。
「いえ、お気になさらず」
「夫は娘が帰ってくるっていうのに、釣りに出掛けてしまってね。夜には帰ってくると思うけど」
好美は愚痴をこぼしながらも、笑っていた。
「どうだい、美和子、ぜんそくは出てないかい?」
「もう、お母さん、そんなのだいぶ前の話でしょ。今は全然大丈夫よ」
好美の会話に一馬は疑問を覚え、思わず割って入った。
「あの、美和子ってぜんそく持ちなんですか?」
すると美和子がすぐに否定する。
「子供の時よ。小児ぜんそくだったの。今は全然大丈夫だから」
それを聞き、好美はしみじみと遠い目をする。
「子供のとき、美和子のぜんそくは本当に大変でね。いつ発作が起こるか分からないから、吸入器と薬が欠かせなかったの。それでも対応できないから、いっつも私が病院に連れて行ったりしてたんだよ」
「そ、そうだったんですか……」
「でね、夫と相談して田舎の家に引っ越したの。そうしたら、だいぶよくなって発作も起こさなくなったんだよ」
好美の言葉を聞いて、一馬は驚いた。
「もう、その話はいいから」
美和子は無理やり話を変えて、好美の体調について質問をはじめた。