喜んでいいのか、寂しがっていいのか、恵美は複雑な気持ちで息子の良太を見る。良太はそんな恵美の気も知らず、てきぱきと荷造りをしていた。

「なんかあったらいつでも電話しなさいよ」

「ああ、分かってるよ」

良太は恵美の言葉に簡単に返事をする。恵美の言葉の裏に隠してある気持ちなど、きっと気付いてない。

良太は22歳で、今年大学を卒業する。大学は近かったので家から通っていたが、就職先の配属が地方となり、1人暮らしをすることになったのだ。

恵美は正直、家から通える範囲の会社に勤めてほしい、そう願っていた。

しかしそうはならなかった。

もちろんこの不況の最中、息子が就職浪人をしなかっただけマシだというのは分かっている。それでも良太がこの家を出ていくというのは寂しい気持ちがあった。

良太は荷物を整理し終えると、スタスタとそのまま玄関に向かっていく。その顔には将来への期待しかなかった。そんな顔をされると、親としては何も言えない。

恵美はリビングでテレビを見ている夫の和幸を呼ぶ。

「あなた、良太が行っちゃうわよ」

「……ぉう」

小さな返事の後、和幸はここ最近また重くなった体を起こし、玄関に来た。

「じゃあ行ってくるよ」

「本当に健康にだけは気をつけてね。あなた、料理とかはできる?」

寂しいわ、という言葉を喉にとどまらせながら恵美は言葉をかける。

「分かってるよ。大丈夫だって」

良太は困ったように笑った。

「……まあ、元気でな」

和幸はポツリと呟(つぶや)いた。恵美は思わず和幸に向ける目線が鋭くした。

「ああ。それじゃあ。たまには帰ってくるよ」

それだけを言い残し、良太は実家を出て行った。

良太を見送ると、和幸はまたリビングにのそのそと戻っていく。

男親というのはこの程度の愛情なのだろうか。

恵美は改めて思い知らされた。