子どもたちの協力

風の向きが変わり、朝晩の空気に軽さが混じり始めたころ、子猫たちは段ボールの外へ出て遊ぶようになった。びわの足もすっかり良くなった。

けれど、現実的に考えれば、健司がこの先、母猫と子猫すべてを1人で育てていくのは無理があった。足のこともある。餌、掃除、世話のたびに全身が軋む。「手伝うよ」と言う子どもたちの言葉は嬉しかったが、それに頼るわけにはいかない。

「おじさん、猫もらってくれる人、絶対いるよ」

縁側で子どもが差し出した手には、猫の顔が描かれた紙。丸い輪郭に、色鉛筆で塗った耳。裏には「しまとくろ、かわいいです」と震えた字。最初は警戒していた母親たちも、今では積極的に子猫の里親探しに協力してくれている。

「これ、学校で配るんだ。いいでしょ?」

「ああ、任せた」

数日後、子猫を引き取りたいという2組の親子が玄関に現れた。

知らない顔だ。

母親が会釈し、子どもが背後から猫用のかごを押し出した。

「この子たち……引き取らせていただいていいんですよね?」

「よろしく頼む」

健司は言って、段ボールから子猫を抱き上げた。

「この子、名前あるんですか?」

「……決めてない。まだ」

「大事に育てます」

「そうしてくれ」

健司は戸を少し開け、かごのふたを閉めた。

びわは、玄関の奥からじっとそれを見ていた。鳴きもせず、ただ目を離さなかった。

最終的に、健司のもとにはびわと、かつて死にかけていたあの子猫が残った。

びわはそばに伏せ、子猫を舐めていた。整えられた部屋に、2匹の俊敏な動きだけが、鮮明に映った。

   ◇

朝、戸を引くと、東の光が玄関を照らした。健司はほうきを手にし、掃き始めた。

砂のこすれる音。光が揺れる。

びわが背を伸ばし、縁側に出てきた。あとをついて、子猫がちょこちょこと歩く。ほうきの先にじゃれつく小さな前足。毛の模様が、あの子どもが言っていたとおり、つぶつぶしている。

「この子、つぶがいい」

その声を思い出しながら、健司は目を細めた。健司はほうきを持ったまま立ち止まり、猫たちを見下ろした。

「びわ、つぶ、邪魔だ……そこにいろ」

びわは驚かず、ほうきにあごを乗せて目を細めた。つぶがほうきに飛びつき、また転がった。光が差し込み、床の木目をやわらかく浮かび上がらせていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。