大きな窓が印象的なリビング。眼下に見える景色は、レゴブロックのようなビル群と細く伸びる運河。大理石のテーブルの上には、有名ブランドのティーセットが並んでいる。

「どうぞ召し上がって」

そう言って焼き菓子を運んできたのは、最上階のこの部屋に住むりおちゃんママ。鼻にかかった歓声と共に、タワマンに住む他のママたちが一斉に褒めちぎった。

「これって今人気すぎて手に入らないってSNSで話題になってたスイーツですよね?」

「ええ、先週ニューヨークから日本に初出店したの。本当なら3時間は並ばないと無理なんだけど、うちの主人がたまたまオーナーと知り合いでね」

再びママたちが競い合うように感嘆の声を漏らす。麻里子は、カップを片手に微笑みながら、時折「すごい」「可愛い」と合いの手を入れるのが精一杯だった。

息苦しいママ友とのお茶会

りおちゃんママが中心になり、開催されるお茶会はどこか息苦しい。それはきっとひとえに、りおちゃんママに目を付けられないよう、みんなが気を使い、距離を測りながら、座っているからだろう。

ふとキッズスペースに目をやると、息子の翔が他の子と一緒にミニカーを走らせている。ぶつからないようにコースをずらしてあげたり、泣きそうな子の前に、そっとお気に入りの赤い車を差し出したり。視界の端に、彼のささやかな優しさが見えて、わずかに肩の力が抜ける。

「あ、そうそう。今日はこれを渡すんだった」

お茶会がひと段落したころ、りおちゃんママがオレンジ色の封筒を束にして持ってきた。

彼女と仲の良い上層階のママたちも手伝って、子どもたちに1枚ずつ配っていく。封筒の角には小さな黒いリボン。表にはかぼちゃのスタンプと、集合時間と場所が印字されていた。

「今年も親子でハロウィンパーティーをしましょう。フォトブースも用意する予定だから楽しみにしててね」

集まってきた子供たちの封筒を受け取った顔が、ぱっと明るく輝いた。

「やった」

翔の小さな声にも、はっきりと喜びが混じっている。

周りでも歓声が上がり、封筒を抱きしめる子、さっそく床に座って中身を取り出す子、カードをママに見せに来る子。それぞれの反応が部屋に広がった。けれど麻里子はあまり気が乗らなかった。