外注費の現実ともう1つの選択肢

夜、夕食を終えるなり、夫はソファでスマホを親指で滑らせていた。

麻里子は隣に腰を下ろし、昼間聞いたハロウィンパーティーのことを話した。自分でも外注でいくらかかるか調べてみたが、慧斗くんママの言った通り、ぎょっとするような金額だった。しかし、だからと言っていい加減な仮装で、翔1人だけ浮くのは避けたい。そう最後まで話を聞いた夫は、ちらりと顔を上げて言った。

「子どもの遊びだろ。そこまで気張らなくても」

薄いガラスを強く擦ったような音が、頭の中に響いた。言い返そうとして、息を吸い込んだところで反論は立ち消える。

奥の部屋で眠っている翔に聞かせたくなかった。麻里子は拳を作ってからほどき、水を飲みに立った。

   ◇

麻里子は家計簿にシャーペンで数字を書いては二重線で消すのを繰り返していた。

そのうち紙の毛羽立ちがひどくなってくる。

視界の端に映る翔は、両腕を広げて変身のポーズを練習していた。聞けば、戦隊ヒーローの仮装が御所望らしい。

「仕方ないか……」

ある決意を胸に、麻里子は田舎の母に電話をかけた。

母は電車で1時間半ほどの距離に住んでいる。昔は、麻里子を含めた3人姉妹の洋服を毎シーズン作っていたほど裁縫が得意で、基本的に母に布で作れない物はない。

「……それでね、衣装自分で作ろうと思って」

「あら、いいじゃない。翔ちゃんも喜ぶわよ」

「でも私さ、本格的な衣装なんて作ったことがないんだよね」

「大丈夫大丈夫。裁縫は図面が8割。どんな形にするか決めれば、手が勝手に動くよ」