黒い招待状が匂わせる圧力

やがてお開きの時間になり、子どもたちは順番に靴を履く。廊下に出ると、エレベーターの方からひんやりした空気が流れてきた。麻里子が翔の手を取って歩き出すと、角のところで慧斗くんママが小走りで追いついてくる。

「翔くんママ、ちょっといい?」

「どうしたの?」

エレベーターを待つ間、ラウンジのソファーに並んで座ると、彼女はスマホのアルバムを開いた。

「あのね、びっくりすると思うんだけど、これ去年りおちゃんママが主催したハロウィンパーティーの写真……」

昨年の写真が指先で次々と流れていく。親子でテーマをそろえた衣装。光沢のある布、精巧なヘッドピース、背中に広がる羽根。衣装に気合が入っているのが、写真からも分かった。

「結構ガッツリ仮装するのが暗黙のマナーみたいになっててね。うちは去年外注したんだけど、正直きつかった。こんな感じの衣装でだいたい……」

「えっ……!」

アメコミヒーローのコスチュームに身を包んだ慧斗くんの写真を見せながら、声を落として告げられた金額に麻里子は思わず息を飲んだ。「本当に?」という視線を送ると、慧斗くんママは神妙な顔でうなずいた。

「外注するなら急いだ方がいいよ。安いとこはすぐに埋まっちゃうし」

そのときエレベーターの到着音が鳴り、翔が慧斗くんとじゃれ合いながら全速力で駆けてきた。

「ママ―! 僕、やりたい仮装決まったー!」

麻里子は小さく息を飲み、うなずいた。

「教えてくれてありがとう。ちょっと調べてみる」

「うん、お互い頑張ろう」