<前編のあらすじ>

華恵さん(仮名、56歳)は会社員の夫・聡さん(仮名、58歳)を突然の病気で失いました。世帯年収が激減したことで生活への不安に襲われていた華恵さんでしたが、年金事務所で遺族厚生年金と65歳以降の年金の受給見込み額を聞き、「1人で生活することになるけど、これなら何とかやっていける」と安心しました。

しかし、窓口の職員から「では、これから受給できるこの遺族厚生年金ですが、今日ここで請求すると受給できるようになります。そのまま請求するということでよろしいですか?」と聞かれ、「なぜ、こんなことを聞くのかな?」と不思議に感じます。

●前編:【年収1000万円の夫を亡くした56歳妻「なぜこんなことを聞くの?」遺族厚生年金請求時に抱いた“意思確認”への疑問】

遺族年金請求が将来の繰下げ受給に与える影響とは?

65歳から受給可能な老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)には繰下げ受給制度があります。受給の開始を65歳より後に遅らせ、受給額を増額させる制度となり、1カ月の繰下げで0.7%増額され、最大10年・75歳まで繰下げをすれば84%の増額ができることになります。遺族厚生年金の受給権がある人は現行制度上、老齢基礎年金、老齢厚生年金いずれも繰下げ受給することができません。しかし、2028年4月より遺族厚生年金の受給権のある人も老齢基礎年金や老齢厚生金について繰下げができるようになります。

改正はまだ先という中で、華恵さんはこのままでいくと65歳も引き続き遺族厚生年金の受給権者になりますが、改正された後に65歳になることから、将来、老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰下げ受給が可能になります。ただし、そのうち老齢厚生年金の繰下げについては遺族厚生年金の請求をしていないことが条件となっています。

もし、今回、遺族厚生年金を請求しなければ、つまりその受給をしなければ、将来華恵さんは老齢厚生年金の繰下げができます。遺族厚生年金をそのまま請求して65歳以降も受給し続けると、老齢厚生年金は繰下げできず、老齢基礎年金しか繰下げができません。