<前編のあらすじ>

現在59歳の恵美さん(仮名)は、パートで働きながら厚生年金に加入中です。「昔は60歳から受給できたのに、私の世代からは65歳開始か……」と感じていた中、年金の繰上げ受給制度を知ります。減額率の改正により繰上げしやすくなったことを知った恵美さんは「自分の年金を自分が元気で使える時に使っておこう」と前向きに考えるように。

しかし、既に年金生活を送る夫の康之さん(仮名、69歳)の配偶者加給年金への影響が気になります。夫婦は恵美さんが60歳になる前に年金事務所へ相談に行くことを決意。そこで職員から告げられたのは、繰上げのタイミングが1カ月でも遅れると大きな影響があるという事実でした。

●前編:【「年金を元気なうちに使おう」59歳女性の繰上げ検討で判明…夫の年金への驚くべき影響】

たった1カ月の差が夫婦の年金を左右する理由とは?

現在厚生年金加入中で59歳の恵美さん。厚生年金に加入し続けたまま60歳を迎える予定ですが、60歳になった時点でその前月までの厚生年金加入期間は239月になりそうでした。

配偶者加給年金は年下の配偶者が65歳になるまで加算されるのが原則で、恵美さんが繰上げをしなければ恵美さんの65歳到達月分まで康之さんに加算されます。しかし、配偶者が繰上げ受給をして、厚生年金加入期間240月以上で計算された老齢厚生年金を受給できるようになると、加給年金は支給停止になることになっています。つまり、恵美さんが繰上げして、その老齢厚生年金が240月以上の厚生年金加入期間で計算されている場合、康之さんの加給年金はそこから恵美さんが65歳になるまで支給停止となります。

繰上げ請求すると、その時点からの繰上げ受給開始となり、繰上げした日の前月までの加入記録で年金が計算され、かつ繰上げ時期に応じた減額がされることになります。恵美さんが60歳になる月に繰上げする場合、60歳0カ月としての繰上げ(24%減額)ですが、その前月までの厚生年金加入期間は239月、つまり240月未満ですので、この段階で繰上げ受給しても康之さんの加給年金は支給停止されません。そして、繰上げ受給開始後も恵美さんが引き続き厚生年金に加入していても、その厚生年金加入期間分が老齢厚生年金の額に反映されるのは65歳になった時であるため、65歳になるまで239月分で計算されたままとなります。

その結果、恵美さんが65歳になるまで、つまり10年間、康之さんの加給年金は加算され続けることになります。