猫が呼び寄せた思わぬ来訪者
静かな夕方の時間に、子猫たちの鳴き声が響いていた。
窓を少し開けていたせいかもしれない。
ふと、外から気配がした。
窓の外に、子どもたちの影が揺れていた。勝手に敷地に入り込み、曇りガラスに指を当てて、そっと中を覗いている。
「今、鳴いてたよね? やっぱり猫いるんだ。見れないかな」
「だってほんとは、ここ来ちゃダメって言われてるし……」
健司は戸を引いて開けた。子どもたちの目が一斉にこちらを向く。少し怯えたような顔も混じっていた。
「見たいのか?」
「……見たい」
「手、洗ってからな」
外の蛇口を指差すと、子どもたちは小走りに向かった。
「静かにしろよ。驚かせるな」
頷きながら、濡れた手を服で拭く子もいた。
段ボールの中、母猫のそばに小さな4匹。
「この子、何て名前?」
1人の女の子が段ボールの中を覗き込みながら聞いた。
「びわだ」
健司は少し間を置いて答えた。猫が耳をぴくりと動かした。
「じゃあ、赤ちゃんたちは?」
「まだ決めてない」
「じゃあ、この子は、しまだね!」
「あ! ずるい! 僕も!」
それから次々と勝手な命名が行われた。しま、くろ、はな……もうひとつは、つぶ、だったか。健司は少し離れた場所に立って、腕を組み、黙って見ていた。子どもたちの声はよく響いた。
「この子、お母さんの隣が好きなんだね」
誰かがそう言った。
健司は答えなかったが、唇の端がほんの少しだけ、動いた。
