短い春の終わり、徐々に暑い日が増えてきたので美和子はタンスから夏物の服を取り出し、衣替えを始めた。
半年に一度、毎回やっている衣替えだが、今年はいつもと少し違う。去年まで気に入ってよく着ていたカットソーを肩に合わせ、美和子は寝室に置いてある姿見を覗きこんだ。
明らかにサイズが大きくなっている。普通に着るのはちょっと難しいなと思ったが、美和子は落ち込むよりむしろ喜んでいた。
ダイエットに成功した美和子
今年で43歳になる美和子は、加齢とともに落ちていく体力とそれに反比例するように溜まっていく脂肪に危機感を抱き、年明けからジムやピラティスに通っていた。体重が落ちていることも、見た目が細くなっていることも実感していたが、改めて去年まで着ていた服がゆるくなっていることを目の当たりにすると、ダイエットの成果をより顕著に実感することができた。
美和子は大きくなったTシャツを着てリビングに向かった。リビングでは夫の吉弘がソファに寝そべり、テレビを見ていた。
「ねえねえ、これ見て。明らかに去年よりも細くなってるの分かる?」
「へー、すごいじゃん」
嬉々として吉弘に尋ねたが、吉弘はこちらをちらりと見ただけで適当な相づちをしているのはすぐに分かった。美和子は不満を持ちながら吉弘の後頭部を睨みつける。
吉弘はスウェット姿でソファに寝そべり、テレビを見ていた。部屋着のTシャツからは腹が出ているし、顎にもしっかりと二重の線がついていた。
結婚して20年近くになる。吉弘は2つ上の45歳だが、出会ってから今までで1番太っている。若いときはもう少しシュッとした見た目で凜々しかったはずだが、あの頃の面影はもうほとんど残ってなかった。
