「NISAなら大丈夫」という誤解から悲劇が始まる

ここで平三さんが興味を持ったNISAについて知識を整理しよう。

NISA――正式には「少額投資非課税制度」という。株式や投資信託にて利益を得ると約20%の税金がかかる。しかし、NISAを通じて取引をすると、そこから利益が丸々非課税になる。

このNISAという制度は2024年に「新NISA」として大々的にリニューアルされた。元本にして年間360万円(つみたて投資枠と成長投資枠を併用する場合)、元本部分の合計1800万円まで非課税で運用できる枠が設けられている。

金融投資初心者にもやさしく利便性も高いことから、老後に向けた資産形成の手段として広く推奨されている制度ではある。だが、「投資初心者に優しい制度で利益が非課税であること」と「投資初心者でももうけられること」は、まったく別の話だ。

日に日に様子がおかしくなる平三さんを目に梨花さんは不安を募らせる。

「悪いとは思っていたんですが、でもどうしても耐え切れなくて……」

とうとう梨花さんは平三さんの通帳や証券口座の残高を確認してしまった。

すると2000万円ほどあった老後資産が直近1年ほどの間に200万円弱にまで落ち込んでいた。平三さんの老後資金はもはや尽きたと言っていい。近い将来、再び働かざるを得ないことは明らかだった。

とはいえ、梨花さんさすがに通帳や口座を見たとも言えず「お父さん、NISAってどう?」と聞くほかなかった。

平三さんは「これがなかなか勉強になってな」などと最初は愛想よく応じていた。だが、梨花さんがしつこく追及するうち「市場が下げただけ」「あの銘柄が失敗しただけ」と負けが込んでいる現実について認めた。とうとう平三さんは涙を浮かべこう語った。

「買っては売り、売ってはまた買い直すサイクルに入ってしまった。欲が出て、怖くなって損を固めることが多くなった」

そしてこの言葉を最後に何も語らなくなったという。

●老後資金の大半を失った平三さん。父娘がその後たどった結末とは? 知っておきたい投資の鉄則とともに、後編【高齢親の老後資金2000万円が投資で消える厳しい現実…父娘が失敗から学んだ“投資の鉄則”】で詳説します。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。