<前編のあらすじ>
ある冬の朝、父親の訃報を受けた兄・陽一(仮名)は、実家の門扉の前でしばらく立ち尽くしていた。これから始まる相続の地獄を予感していたからだ。
リビングに入ると早速、弟・健太(仮名)から「株はどうするつもりなんだ?」と問いかけられる。父が遺したのは、陽一と共に長年切り盛りしてきた町工場だった。しかし株式はすべて父が保有しており、法定相続分の通り兄弟で半々に分けると経営が不安定になってしまう。
陽一は「会社の株を保有することは、社員や取引先の人たちの人生も背負うことになるんだ」と必死に説得するが、健太は聞く耳を持たない。健太はかつて営業部長としてのプレッシャーから体を壊して退職した過去があり、兄へのコンプレックスを抱えていたのだ。
●前編:「遺言書は不要」と信じた父が残した代償…親子で育てた町工場の株式が、兄弟を引き裂く“相続財産”に変わった日
株式も分割対象となる遺産相続
法律上、株式も不動産などと同じく遺産分割の対象である。相続分に沿って株式を一定の割合ずつ相続することもできるし、無理に分割せず複数相続人で共有することも不可能ではない。
一般的な相続財産であればの話だが、こういった方法で何かしらトラブルを避けつつ、じっくり相続について話を進めることもできる。
しかし、経営に直結する株式においては話が別だ。どちらを選んだにせよ会社経営という現場では、それが災いすることがある。なぜなら、株式は原則として保有割合に応じて経営権が付与されるからだ。
考えてみてほしい、中小零細企業において、経営権における決定権を持つものが複数存在している状況を。早々に経営の安定性が失われ、最悪の場合、会社の存続にも影響が及びかねないのは容易に想像がつくだろう。
さて、それらの基礎知識を確認した上で健太の希望を確認してみよう。
彼は株式を兄弟で半分ずつに遺産分割したうえで、今後は経営にも関与していきたいと主張した。一方の陽一は、事業の安定と従業員保護の観点から、「株を単独で引き継ぎたい」と譲らなかった。
2人は実家で顔を合わせて以降は連日、深夜まで相続会議を続けた。だが、半年以上経っても結論は出ない。
気づけば従業員や取引先にも相続で揉めていることが知れ渡り、会社の評判も危うくなってきた。
「これでは会社が壊れる」
陽一はそう思い、ある秘策を実行することにした。
