息子が、倒れた……

夕方、キッチンで鶏肉に下味をつけながら、玲菜はぼんやりと窓の外に目をやった。雨脚は昼過ぎからずっと強まるばかりで、明日も洗濯物は浴室乾燥機に頼るしかなさそうだ。

「今日は、中華風にしてみようかな」

今夜は孝雄がいないので、多少ハイカロリーなメニューでも構わないだろう。ひとりごとのように呟いたそのとき、不意にスマートフォンが鳴った。

画面に表示されたのは学校の電話番号。不吉な予感が胸をかすめたのと、電話口の保健室の先生が深刻な声を発したのは、ほとんど同時だった。

「お母さま、雄星くんが……サッカー部の練習中に倒れて、現在、救急車を呼んでいるところです」

「えっ……え? 雄星が……?」

一瞬、頭の中が真っ白になった。胸が締め付けられ、息が詰まる。スマートフォンを握る手にも力が入らず、今にも落としてしまいそうだった。

しばらくして搬送先の病院を確認した玲菜は、玄関を飛び出した。傘を持つ余裕などあるはずもなく、雨の中をガレージまで走ってエンジンをかける。ハンドルを握る手が濡れていたのは、雨のせいなのか、汗のせいなのか、自分でも分からなかった。

●結論からいえば雄星を襲った症状は命にかかわるものではなかった。だが、玲菜は医師や見舞いに来た雄星が所属するサッカー部の顧問から話を聞くにつれ、自身が親として間違ったふるまいをしてしまったのではないかと、思い悩むようになる。そして玲菜が決断したこととは。後編:【病床に横たわる息子を前に…「夫がどう思うかばかりを気にしていた」と女性が反省した理由】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。