ドライブに行かない?
浩平と手分けして自動車税と延滞金を支払い、諸々の手続きを経て、父の車は無事に車検を通った。そして、免停もようやく明けたころ、静子は父を誘った。
「ちょっと、ドライブ行かない?」
父は最初こそ渋ったものの、すぐに腰を上げた。
「……たまには、助手席も悪くないな」
照れくさそうにそう言って、助手席に乗り込んだ父。静子はハンドルを握り、アクセルをそっと踏み込むと、父の横顔をちらりと盗み見る。深いシワで表情が読みにくいが、どこか嬉しそうなその顔に、胸が温かくなった。
「お父さん、どこ行きたい?」
そう尋ねると、父は腕を組んで少し考えたあと、にやりと笑った。
「昔よく行った、あの海沿いの道、覚えてるか?」
「ああ、はいはい、覚えてるよ」
父と母、そして兄と静子で、何度もドライブしたあの道。潮風に吹かれながら、窓を全開にして笑い合った、遠い日のこと。
静子はウインカーを出して、海の方へ車を向けた。かつて家族で何度も通った道を、今度は静子が、父を乗せて。
フロントガラス越しの眩しい光が、助手席に座る父の横顔を照らしていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。