<前編のあらすじ>
静子は久しぶりに訪れた実家の前で、言いようのない気持ちを感じていた。激しい性格の父とは距離を置いており、5年前に唯一の話し相手だった母が亡くなってからは兄に父の世話や実家の管理を任せきりになり実家からも足が遠のいていた。
静子が実家にまた足を運んだのは、父が倒れたからだった。地獄耳に何かととげのある物言い。父らしさはなくなっていないもの、痩せさらばえた父の姿にはほとんど昔の面影は残っていなかった。
父を放っておくことはできない。しかし、父は老人ホームには入りたくはなさそうだ。いかんともしがたい思いを抱えながら、静子は実家にある車に乗り、買い出しに出かけるのだが……。
前編:面影がないほど痩せていて……。5年前に母が亡くなってから実家から足が遠のいていた40代娘の前に現れた変わり果てた姿の父
なぜか警官が……
スーパーでお茶パックといくつかの食材を買い込み、駐車場に戻ったときだった。
車のそばに立っている制服姿の警官が目に入った。胸が、嫌な予感でざわつく。
「すみません、この車、あなたのですか?」
若い警官に声をかけられ、静子はうなずいた。すると、彼は困ったような表情で言った。
「車検が切れてます。ナンバープレートのシール、見ていただけますか?」
驚いてナンバープレートを確認すると、貼られている車検ステッカーの日付は、とうに過ぎていた。
「……えっ? うそ……」
頭が真っ白になる静子に、警官は申し訳なさそうに説明を続けた。
「無車検運行は、道路交通法違反ですので……違反点数6点、免停になります」
目の前がぐらりと揺れた。しかし警官は手際よく手続きを進めていき、静子はサインをするほかなかった。
警官が去ったあとも静子は途方に暮れたまま、道端に立ち尽くしていたが、もう、どうしようもない。スマホを取り出しながら、静子は胸にこみ上げる情けなさを必死で押し込めた。