兄は静子を見るなり駆け寄ってきて

しばらくしてタクシーのヘッドライトが、暗い駐車場をゆっくりと照らした。後部座席から転がるように降りてきたのは、浩平だった。

「静子!」

兄は駆け寄ってくるなり、静子の様子を確かめるように顔をのぞき込んだ。静子は情けなく苦笑いを返すしかなかった。

「ごめん、待たせたな。大丈夫か?」

「うん、まあ……免停になったけどね」

力なく答えると、浩平は気まずそうに眉を下げ、ポケットから封筒を取り出した。
「これ、父さんの引き出しにあった」

封筒の中身は納税通知書だった。そこには、自動車税として39,500円の文字が印刷されている。

「税金払ってなかったみたいでさ。だから車検受けられなかったみたいだ」

説明する浩平の声は、ひどく沈んでいた。静子は何も言えずに、通知書を見つめた。

かつてあれほど車が好きだった父が、自動車税の支払いを忘れていたという事実が衝撃的だった。

休日になると庭で車を洗っていた父の姿を思い出す。バケツにたっぷりの水を張り、きめ細かい泡で丁寧にボディを磨く父。静子が気まぐれに手伝いに行くと、嬉しそうにタオルを渡してくれた。

「俺がもうちょっと早く気づいてれば……静子だって免停にならずに済んだのにな」

浩平が、苦しそうに言った。

「……違うよ」

静子は、ゆっくりと首を横に振った。