働くことに絶望した若者の再出発

柴山は、投資先を慎重に選び始めた。一番魅力的に感じられるのは、AI向け半導体のエヌビディアだったが、株価がかなり値上がりしているため、投資するのに二の足を踏んでしまっていた。もう一つは、アメリカの電気自動車メーカーのテスラだった。いろいろと問題がある企業だが、株価は2021年の高値400ドルと比較すると今は178ドルと半値以下の水準になっている。電気自動車を使った自動運転という次世代の移動手段、物流事業を展望すれば、テスラの将来価値は大きいというのが柴山の考えだった。株価に勢いのあるエヌビディアを追いかけるのか、あるいは、テスラの出直りに期待するのか。柴山は、投資先を考えるのが楽しみになっていた。

一方で、自身の就職についても改めて考えていた。学生時代に夢中になっていたプログラミングは、自分の能力に限界を感じて職業にすることを検討もしなかったが、AIを使ったプログラミングの方法が注目されるようになり、単純な入力作業から解放されるのであれば、柴山は試してみたいことがたくさんあった。「自分の好きを仕事にする」という原点に返って、もう一度関連企業を探し始めた。ネットでプログラミング関連の求人を探してみると、いくつか興味深い案内があった。応募フォームに必要なデータや面談希望日を入力すると、久しぶりに夕食を食べに外出する気持ちになった。外に出てみると夕方なのに日差しが残り、汗が噴き出すほどに暑かった。「今年の夏も暑くなりそうだ」と口をついた言葉に柴山は自然と笑顔になっていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。